口腔外科医のあれこれ

某市中病院で働く口腔外科医が、日々の診療のことや旅行記などなどを書いています。フィクションあり、ノンフィクションあり。信じるか信じないかはあなた次第。

明けまして

あけましておめでとうございます。

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年末年始当番だった私としては、年明けの実感があまりないのですが…笑

 

最近よく、医師のプライベートについてまでも言及する人がいるんですが…

ちょっと困るなぁ、と思っています

 

今朝6時半

まだ周りは薄暗い

隣で寝息をたてる彼を起こさぬようそっとベッドを出ると、洗面所に向かう。

蛇口を捻ると、水が勢いよくでてきた。触ると、手が凍りそうなほど冷たい。その水で顔を洗う。

先程まで朦朧としていた頭が、凍るような冷たさで覚醒していく。

 

クローゼットを開ける。

暖房の空気が入らないクローゼットは今日は特に寒い。

今日はこの後出かける予定がある。

それに合わせた格好にしなくては。

赤のニットに黒のタイトスカートを選ぶ。

ダウンを着込み、家のドアを開けると、冷たい空気が頬に触れる。

車に乗り込むが、車の中の空気も冷たい。息が白くなり、手がかじかむ。

スイッチをつけ、暖房をつけると、フロントガラスが白く曇り始めた。

フロントガラスの脇には霜がおりている。

車が暖まるまで、その霜の結晶をぼうっと眺める。

ーきれい。

暖房の熱で霜の結晶が段々と溶け始め、フロントガラスの曇りも取れ始めた。

アクセルを踏み、車を発進させる。

 

まだあたりは薄暗く、元旦なのもあるのか、車は殆どいない。

10分程車を走らせていると、目の前が段々明るくなってきた。

日の出だ。

急に視界が眩しくなり、太陽が上がってくる。

先程まで少ししか見えていなかったのに、その輪郭がどんどんはっきりしてくる。

ー太陽ってこんなに早く上るのか

目を細めながら、アクセルを踏み込み、太陽に向かって進んでいく。

病院に着く頃には、すっかり太陽は登り切っていた。

 

朝7時半

入院患者の処置を済ませ、カルテを書く。

ナースステーションに入ってきた看護師が

「あれ、先生今日も当番なの?年末年始で当番で大変ねぇ。」

と声をかけてきた。

ホーム病棟の中でも私が比較的仲良くしている看護師だった。

「近藤さんも夜勤お疲れ様。年越し夜勤辛いね。」

近藤さんはくしゃっと笑いながら

「今日は定時で絶対帰るの!旦那と息子とおせち食べなきゃ!」

そう言う。

夜勤で疲れている筈の彼女の、嬉しそうな笑顔が眩しい。

 

仕事を終え、彼に

「終わったから今から帰るね。」

と連絡を入れる。

返信はない。

まだ寝ているだろうか。

朝出てくる時に見た、彼の寝顔を思い出した。

ー早く帰ろう。

 

帰りの車は少し急ぎ足になる。

近藤さんに触発されたのか、無性に早く彼に会いたかった。

帰る家に、おかえり、と言ってくれる人がいる。一緒にご飯を作り食べ、くだらないことで笑い合う。

そんなたわいもない事が、幸せなのだと、彼といると気付かされる。

 

朝8時半

家のドアを開ける。

ベッドに横になった彼が、ドアの音に反応したのか、瞼を擦りながらうーんと伸びをするのが見えた。

「おかえり」

眠たげな目をトロンとさせながら笑う彼。

「ただいま」

彼を抱きしめ、額にキスをした。

 

 

医師は奉仕の心で患者に接しろ、と言う人を見ることがある。

でも、私たちは医師である前に、1人の人間だ。

家族がいれば、恋人だっている。

手術が長引けば帰りは遅くなるし、当番日に急患がくればプライベートな時間は途端になくなる。当直明けはヘトヘトで、帰れば夕方までぶっ通しで眠る。そしてまた翌日仕事に向かうのだ。

私の先輩は過労からくる精神的ストレスで自殺した。

私自身も、不規則な生活に相手がついていけず、すれ違ったことも何度もある。

 

そんな現実も知らず、医師は患者に奉仕すべき

医師は患者のことを1番に考えろ

そう糾弾する人達に問いたい

 

貴方の家族が、恋人がもし医療従事者で、こんな生活をらしているとしたら?

それでも貴方はそう言えますか?

貴方の大事な人に、自分のことはいいから、来る日も来る日も患者のことだけを考え、身を粉にして働け。

そう、言えますか?

 

もちろん、仕事中に手は抜かない。

プライベートでも勉強はするし、気になる患者がいれば気にもする。

全く仕事のことを考えない日はほぼ無いに等しい。それが自分達に課された使命と責任だということもわかっている。

だからといって、患者が全て、ではない。

仕事とプライベートは全く別だ。

寧ろ、プライベートが充実してこそ、仕事へのモチベーションが高まる。

嫌なことがあれば忘れるまで飲むし、悲しいことがあれば泣きながら延々と眠る。

 

私達は貴方達となんら変わらない、1人の人間なのだ。

 

私達のプライベートまで首を突っ込むのはやめて頂きたい。

私達には私達の生活があるのだから。