口腔外科医のあれこれ

某市中病院で働く口腔外科医が、日々の診療のことや旅行記などなどを書いています。フィクションあり、ノンフィクションあり。信じるか信じないかはあなた次第。

救急車≠タクシー

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命を救うために走る救急車。

最近、救急車を要請するボーダーラインが低くなりつつある。

 

ある日の当直のこと。

深夜に救急センターからコールが。

電話口からは、何やら不機嫌な看護師さんの声。

「…先生……30代男性、歯痛で救急要請です。受けます?」

救急車は全部受け入れスタンスの病院なので、受けざるを得ない。

 

10分後、救急車が到着。

徒歩で入室する患者。

この時点でおかしい。

救急車は、自分で病院を受診できない状態の人が呼ぶものなのに、徒歩で入室。

…なぜ救急要請した!?

 

一応症状を確認する。

実は、狭心症などの心疾患が原因で歯痛が出ることもたまーにあるからだ。

例えば、虫歯や根っこの病気を指摘されたことのない歯が痛い、とか。

でも、この人は特に今まで大きな病気もなく、がっつり虫歯による歯痛であった。

 

「最近痛くて治療に行かなきゃって思ってたんだけど、時間なくてさぁ。夜中にいきなり激痛が襲ってきて。寝られないから救急車呼んだんだよね。タクシーだとお金かかっちゃうでしょ?」

はなからタメ語で話してくる患者。こちらが女だとなめてくる典型的なパターン。

さらにカルテを見ると、生活保護を受けていた。

腹立たしいことこの上ない。

 

「まず、歯痛で救急を受診されても、できることは鎮痛薬を処方するだけです。根本的な解決はかかりつけの歯医者さんで治療をしてもらうことです。

それから、救急車はタクシーの代わりじゃありません。」

そう冷めた目で患者を見ながら答える。

 

「えー、そうなの?まぁじゃぁそれでいいや、薬出してもらえる?痛くて眠れやしないよ。なんかつよーいやつ出してね。

ていうか、救急車は困ってる人を助けにくるんだから、別にいいでしょ。」

 

は?ばかなの?ねぇ、ばかなの?

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「お薬は一般的なものをお出しします。歯が痛くなったのはあなたがしっかり治療に行かなかったことが原因ですので、自業自得です。

救急車は緊急性の高い患者さんを早急に病院へ搬送するためのものです。あなたのように、歯が痛いだけでタクシーの代わりに使っていいものではありません。あなたを運んでいる間に、死にかけて本当に救急車が必要な人がいるかもしれないんですよ。よくお考えになってください。」

そう言い残して踵を返す。

後ろで、なんだ女のくせに、とかなんとかわぁわぁ喚いている声が聞こえたが、無視して立ち去った。

 

 

救急車の台数は限られており、独歩で受診できるような患者からの要請を受けている間に、本当に緊急性のある患者がいる現場への到着が遅くなる可能性が高くなります。

救急車を呼ぶハードルが高くなりすぎても困りますが、本当に今自分に必要かを考えて欲しいと思います。

 

本当にどうしたらいいかわからなければ、都内や横浜、大阪などの人は#7119で、もしくは地域の救急相談センター、小児は#8000に電話して相談してください。

もちろん、本当にヤバいと思ったら、すぐ119してくださいね!

 

因みにその患者さんは、私があまりにも冷たい目をして淡々と話していたからなのか、もういい!と、薬も受け取らずに帰ったそうです。

 

こういう自分勝手な患者には、一瞬で凍りつく視線をお見舞いしてやる所存です。笑

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