口腔外科医のあれこれ

某市中病院で働く口腔外科医が、日々の診療のことや旅行記などなどを書いています。フィクションあり、ノンフィクションあり。信じるか信じないかはあなた次第。

デンマ、してあげようか。

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ある日、研修医が親知らずを抜いて欲しいと言って相談してきた。

最近親知らずの頭が出てきて痛いんだそうだ。

 

みると、彼の下の親知らずは真っ直ぐに生えていた。これならそんなに時間はかからない。

じゃぁ後でお友達価格でやってあげるよー、と返事し、診療が終わった後に抜歯することになった。

 

因みに、下の親知らずの抜歯は結構大変。

横向きに生えている時は、歯茎を切って、歯の頭を割ってスペースを作り抜いてくる。

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真っ直ぐで生えてきている歯は比較的簡単。

真っ直ぐで潜っている歯はやりにくい。

 

彼のは真っ直ぐで生えてきている歯だった。

 

診療後、ひょこっと研修医が顔をだした。

「よろしくお願いしまーす。」

と言って、ユニットに座る。

 

私「じゃぁ先に麻酔からするよー。」

研「こわいっす。痛いですか?」

私「うーん、麻酔すれば痛くはないけど、神経近いからちょっと押した時に違和感とかはあるかも。」

研「まじっすか。やばいっす。麻酔むっちゃしてください!」

私「あ、じゃぁデンマする?」

研「……へ!?」

私「いや、だから、デンマ。」

研「先生、何言ってんすか!?俺そういう趣味ないっす!」

私「……は?」

 

親知らずは神経に近いので抜歯の時に痛みが出やすく、神経の大元をブロックする、いわゆる伝達麻酔というものをすることが多い。

これをすると、舌半分と、下顎半分が3時間くらい痺れる。神経の近くに麻酔薬をまくので、痛みも感じにくくなる。

これを私たちはデンマ…伝麻、と呼んでいるのだ。

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しかし、彼はデンマ…電マを想像していた。

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それに気づいた私は無言でそいつの口腔内に局所麻酔をした。

研「!?急にやらないでください!!びびります!」

私「うるさいだまれ」

研「あ!?ベロが半分痺れる!?なんすかこれ!?」

私「デンマしたから」

研「へ!?」

 

そのまま無言でものの5分で抜歯をし、創部を縫って終了。

完全に放心状態の研修医を尻目にカルテを書く。

 

しばらくして、向こうの世界から戻ってきた研修医が

「先生、ありがとうございました。むっちゃ早かったっす!

しかし、先生にそういう趣味があったのかと一瞬思っちゃいましたー。

しかしなんか喋りにくいっす。」

伝麻すると舌が痺れるので、感覚がなくなり、喋りにくくなったり、味が感じにくくなったりするのだ。

私「うん、しっかーり伝麻しといたから、3時間は麻酔切れないよ。夕飯は22時くらいに麻酔切れてきてから食べるんだね。」

研「そんなぁ。腹減ります…」

私「しらん!さっさと帰れ!」

 

とぼとぼ帰っていく研修医。

 

その後しばらく、私は電マのkooと研修医の中で噂になったそうだ。

しょーもな。