口腔外科医のあれこれ

某市中病院で働く口腔外科医が、日々の診療のことや旅行記などなどを書いています。フィクションあり、ノンフィクションあり。信じるか信じないかはあなた次第。

脱走者

以前いた病院での話。

 

週1の麻薬中毒覚せい剤中毒の患者が入院する病院でのバイト。診察用ブースには、緊急時ブザーが各々とりつけられているというから、ちょっとびびる。

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ある日覚せい剤中毒の患者に、
「歯が痛くてさぁ、もうどうしようもないんだよ…先生、抜いてくれよ…」
と涙ながらに懇願されて診察すると、ぐらっぐらの歯が多数……

こりゃぁ痛いわ、と仏心?が動き、抜歯をすることに。

 

10本の抜歯なので、局所麻酔もかなり使う。

ちょっとちくっとしますよ、といつも通り言うと、彼はにやっと笑い、
「大丈夫だよ、寧ろ大歓迎だよ、腕に打ってもいいよ」

……おーい、まだ全然ヤク中やんけ!

 


そんなこんなで10本抜歯し、翌週傷のチェックをするね、と伝えた。

彼は、血がついた歯茎を見せながらにやにや笑い、
「来週も注射、する?」

………こやつ、やべー……

 


翌週、病院に到着してみると…

例の患者の名前がない…

まだまだ覚せい剤中毒症状が抜けてないのに、まさか退院したのか!?そんなことある!?
と思っていた

 

蓋を開けてみたら、
なんでも歯を抜いた翌々日に病院から脱走を図ったのだとか……

幸い敷地内ですぐに連れ戻されたが、セキュリティのもっと厳しい精神病院へ移されたのだそうだ。

今までは歯が痛くて脱走する気も起きなかったけど、歯を抜いたら楽になったんだ!
だからさよならだよね!

と、連れ戻された彼は言ったそうだ…

治療って難しいね。