ある日、外来で抜歯をしていた。
局所麻酔をして、いざ歯を抜こうと思ったら、歯を抜くための機材が足りなかった。
近くにいた研修医の細田に、
「細田先生、エレベーター持ってきて。」
と声をかけた。
細田は顔は整っているのだが、細身でなよっとしており、概ね口腔外科らしからぬ研修医である。そしてどこか抜けている。
エレベーターとは、歯科で抜歯の時に使う機材だ。
最近ではヘーベルと呼ぶのだが、私は研修医時代についていた指導医がずっとエレベーターと言っていたので、とっさの時にはエレベーターと言ってしまう。(一応学校では両方の呼び方で教えます。)
「はい、わかりました!」
と返事をして消えていく細田。
2分ほどで戻ってきたのだが、手には何も持っていない。
細田は口腔外科にきてまだ2ヶ月。
物のしまってある位置がわからなかったのだろうか。
私「どしたの?場所わからなかった?」
きょとん、とする細田。
私「いや、エレベーターお願いしたよね?」
さらにきょとん、とした顔で、
細田「え、呼んできましたよ?エレベーター…」
………はい……?
そう、細田くん、何故か昇降するエレベーターを呼びに行ってしまったのだ……。
私「いやいや、どんなサービス!?しかも患者さんまだ帰らないからね!?抜歯これからだから!ヘーベルだよ、ヘーベル!」
細田「え!?あ!すみません!!」
慌てて取りにいく細田。
確かにエレベーターと咄嗟に言ってしまった私も悪かったが……流石に間違えすぎでしょ…。
その後無事、涙目の細田くんからヘーベルを受け取りましたとさ。
負けるな細田!