口腔外科医のあれこれ

某市中病院で働く口腔外科医が、日々の診療のことや旅行記などなどを書いています。フィクションあり、ノンフィクションあり。信じるか信じないかはあなた次第。

キスまでの距離〜パーソナルスペースはお大事に〜

内科から、舌に白いものがついてしまっているので見てほしい、という60代の女性が紹介されてきた。

 

その人は気管支喘息があるためにステロイド入りの吸入薬を使用していた。

ステロイドは色々な治療でよく使われる。

口内炎に塗る、ケナログ®︎もステロイドだ。

そしてこのステロイド、対症療法として使用するのにとても便利なのだが、お口の中の免疫力を下げるため、長期で使用している人はよく口腔カンジダ症を併発する。

 

この人も、その口腔カンジダ症だった。

 

口腔内を診察し、カビの菌が沢山いるので除菌しましょう、と伝えると、

え??と聞き返えし、身を乗り出す患者。

少し大きめな声で説明しているのだが、どんどん身を乗り出してくる。

もう椅子にはお尻がちょこっと乗っているだけ。

 

私との距離、30cm

近い。近すぎる。

私のパーソナルスペースは1.5mなんだぞ!

 

少し身を引いて説明を続けると、更にどんどん近付いてくる。

 

距離20cm

え?なに?キスしかねん距離なんですけど…

彼氏と話す時でもこんな距離になりませんけど……

 

かなり戸惑いながら、じゃぁ次の予約を決めましょう、とパソコンの方を向くふりをして逃げる。

 

すると唐突に、その人はすくっと立ち上がり、

「あなたお肌綺麗ねぇ〜〜〜。ほんっと綺麗。いいわねぇ。美人だし、ほんっと美しいわ。」

と耳元で私の事をベタ褒めし始める。

本当に近い。というか、本当にキスしかねんくらい近い。

 

背筋にぞわぞわしたものが走る。

怖い!この人怖い!

身の危険を感じる!!

 

なんとか次の予約を決め、じゃぁお大事にされてください。と言うと、患者は私の手をそっと握り、

「kooさんね、覚えたわ。また来るわね、よろしくね〜」

と言って診察室から退室して行った。

 

パーソナルスペースを侵されすぎて呆然としつつ、早く終診にしよう、と思ったkooであった。

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