口腔外科医のあれこれ

某市中病院で働く口腔外科医が、日々の診療のことや旅行記などなどを書いています。フィクションあり、ノンフィクションあり。信じるか信じないかはあなた次第。

シリコンの男

ある日、救急外来から電話があり、頬から膿が出ている患者がいるので見てほしい、と言われた。

 

30代の生活保護の男性。

左の頬骨の下あたりの皮膚から膿が出ている…

なぜこんなところが!?

頬もパンパンだし、高熱だし、採血で炎症数値も高いし、当日に入院になった。

しかし、なぜこんなところから膿がでるのか全く理解できず…感染源特定のためにCTを撮ってみると……

頬骨の下に何やら異物っぽいものが入っている……

これは……よく豊胸でみるアレか!?

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シ リ コ ン

 

本人に聞いてみると、最初は知らぬ存ぜぬの一点張り。でもこれ、ほんとにシリコンが感染なら取らないと膿は出続ける。

そう話すと、実はアメリカに住んでいるときに整形でシリコンをいれた、としぶしぶ話し出した。

ついでに入院時の問診等々に諸々嘘があることが発覚。

 

①緊急連絡先は妻の携帯→妻ではなく、九州にいる不倫相手に持たせている携帯

②生活保護→アメリカでがっぽり稼いでたけど、医療費は日本の方が安く、日本だと無職になり生活保護が受けられるため日本に帰国してきた。

③シリコンは実は顎先にも入っている。

その他諸々……まぁ出るわでるわ

 

手術日が決まるまでの数日、病棟で創部の洗浄を行っていた。その時にこの男、高級パジャマ、ロレックスの腕時計、どっかいいとこの革靴で必ずくる。

もはや生保感はゼロ。

更に、僕生保だから、使える薬は全部使ってよ、とほざく。

こんな人に私達の税金が使われているのかと思うと、処置してるのがアホらしくなる。

 

しかも病棟処置の時に男の先生の方は向かず、私の方をガン見してくる。

その緑のカラコンの入った目で私を見るのは頼むからやめてくれ。

 

そんなある日、病棟看護師から苦情が。

なんでも、回ってくる看護師を片っ端から口説いているんだそう。

フィリピンで女性を侍らせた写真を見せて、この中に入れてあげるよー

とか言ってくるんだそうで。

お尻を触られた看護師も多々。

 

もう耐えられん、と上に相談。

もともと上の先生からその人に、次に嘘をついたり看護師に手を出したら、信用関係は築けないため、手術はできないと勧告していた。

 

協議の末、翌日強制退院となった。

 

皆がほっとする中、退院当日にその人が処置室まできた。

ありがとうございました。

としおらしく言ってくる。

まぁ最後だし、邪険にするのもなぁ、と思い、お大事にして下さいね。と言うと、途端にぱっと顔を明るくして、

先生、良ければここに連絡をください!僕の相手のお一人に!と言い放ち、名刺を渡してハグしてきた。

 

張り倒したいのを我慢し、そういうのは受け取れない決まりですので。と引きつった笑いをうかべながら、処置室のドアを閉めた。

 

後日、他の病院でも手術が必要と言われ手術をしたそうなのだが、入院中の態度に問題がありすぎてその病院から問い合わせがきた。

どうやって退院させたんですか?もう手に負えなくて…と

 

日本の病院は患者の受け入れを断ることはできない。それを良いことにやりたい放題やる患者は一定数出てくる。どこをラインに患者を強制退院させるかは非常に微妙な問題だ。

そして日本の医療制度は生活保護に優しい。

もちろん、やむ負えず生活保護の申請をしている人もいるが、そうでなく、法の抜け穴をかいくぐって生活保護となり、医療を受ける人は多い。そういう人は生保感がなく、すぐにわかる。

こちらとしては、来た患者は拒めない。

適切な治療を適切に行うことが仕事だ。

でも、こういうケースを経験すると、果たしてそういう人達に、高度な医療を受ける権利はあるのだろうか、と思う。

未だにわからない。