口腔外科医のあれこれ

某市中病院で働く口腔外科医が、日々の診療のことや旅行記などなどを書いています。フィクションあり、ノンフィクションあり。信じるか信じないかはあなた次第。

夜明けの海

プロローグ

 

珊瑚の中にゆらゆらと揺れる、青い魚の群れ。
深い青の中に暖かな光の筋が差し込み、揺れる波にあわせて、変形して光彩を放つ。
水の中でフィンを蹴り出し、光の筋の中を下へ下へと進む。
口の端からこぼれた空気が泡となり、重力に逆らって登っていく。

 

もっと深くへ。


ぐん、と体をすすめると、ひんやりとした水温が伝わってきた。
突然の来訪者に、魚の群れが驚いたように次々と身を翻す。
触れられるようで触れられない、絶妙な距離。

 

やがて、空気を求めて肺が暴れだした。もう限界か・・・

 

ゆっくりと海面に浮かび上がり大きく口を開けると、塩辛い水と共に、空になりかかった肺の中に空気が入ってくる。早くなった鼓動を耳の奥で感じる。

何度か大きく息を吸い込むと、揺蕩う木の葉のように、波に体を預ける。


水の冷たさと太陽の暑さが心地いい。

 

生を、感じる。