休日の当番だったある夏の日、朝の処置を終え帰り支度をしていた。
着替えている途中でPHSが鳴り、急患受け入れの要請の電話がきた。
口がかなり切れてしまって出血が止まらないという。
勿論、受け入れることに。
30分後、一人の男性が救急外来を受診した。
マスクをしていたので外してもらうと……
く…口裂け女…!?
あ、男か…
右の口角から頬に向かい、ぱっくりと傷が開いており、そこから血がだくだく出ている。
まさに口裂け男……
朝からサーフィンをしていたのだが、倒れて波にもまれた際にフィンで頬をザックリ切ってしまったのだそう……
出血点を止め、縫い合わせていく。
出来上がった創部は比較的綺麗だと思うが、今度はフランケンシュタインみたいになって余計に怖い……
このままハロウィンに行けそうである。
その後たいした傷跡にもならず、抜糸をむかえた。
傷口が落ち着いたのでサーフィンも再開したんだそう。
ここまでの傷を作っても続けるんですか、と少しびっくりして聞くと、
「下手の横好きですけれど、海に入っている時は嫌なことも全て忘れられるんです。死ぬまで続けますよ。」
と
「そうなんですか、じゃぁもう切らないようにくれぐれも気をつけてくださいね。」
と言って、診察室を後にするその人を見ていた。
それだけ熱意を持って続けられる趣味があるということが、なんとなく羨ましくあるなぁ。と思いながら、カルテに向き直るkooであった。