細田は朝から憂いていた。
細田は顔は整っているが、イマイチ冴えず、線が細く、概ね口腔外科らしからぬ研修医だ。
私たちの朝は早い。
AM7:30 病棟回診
AM8:30 診療、手術開始
この1時間の間に、患者回診、オペ患者の点滴確保、朝食を済ませる。
この日、細田の線が細く冴えない顔は、より一層冴えなくなっていた。
私「どしたの、朝から変な顔して。」
細田「あ、おはようございます。いやー、今日朝から調子悪くて…」
私「何か悪いものでも食べたの?」
細田「いやー…思い当たるものは……ないんですけど…ちょっと熱あるんです。お腹も痛いし…」
私「あらまぁ。今日は点滴とるのいいから休んでれば?手術日なんだし、途中で倒れたらヤバイでしょ。」
一転、ぱぁっと明るい顔をして、
「ほんとですか!?すみません…」
とぜんぜんすまなくなさそうな細田。
細田は何を隠そう点滴確保が死ぬほど苦手なのだ。
こいつ…さては謀ったな……?と思いながら点滴をブスブスとっていく私。
手術が始まって10分
ふと細田を見ると青ざめた顔をしている。
…こやつ、本当に具合悪かったのか?
と思った矢先、細田が後ろ向きに卒倒した。
前向きに倒れると術野のため、消毒からやり直しになり、術野も汚染される。
よく後ろ向きに倒れた!
…あ、違うか…
控え室に運ばれ、意識を取り戻した細田はトイレに駆け込み、その後数十分トイレにこもり続けた。
感染性腸炎だろうか……
手術も終わり、ふらつく細田と外来に戻る。
丁度昼食が終わり、控え室でおやつを食べていた外来看護師が細田を見て、
「なに、先生、お腹調子悪いの??昨日あげたスムージーあるから、飲んでいいよ」
と、アサイースムージーを細田に渡して消えていった。
ふとそのボトルを見ると…消費期限は10日前である……。
私「…細田、昨日これ飲んだの?」
細田「はい?のみましたよ?コップに移して飲みました。」
私「昨日からお腹痛くなかった?」
細田「夕方くらいから痛かったです…え!?まさかこれのせいですか!?」
私「裏の期限見てみ…」
細田「あぁ!?10日も過ぎてる!?」
かくして、腹痛の原因は解明した。
その後細田は3日3晩腹痛と熱発に見舞われ、最近になってやっと回復したが、未だに油物は消化できないという。
そんな細田の横で、同じものを飲んだはずなのに、平気で唐揚げをほいほいぱくつく看護師…
恐るべき腸を持った看護師であった。